七夕 7月7日はなんの日だー。銀時くーん、一緒にイベントをしよう。
そんな声が聞こえたのはまさに7月7日のその日だった。そういったイベントごとは、嫌いではないものの面倒な上に金がかかるからと子ども達に何も言わないでいた万事屋の主人は、訪問客を一度足の裏で蹴り飛ばしてから、げんなりした顔で出迎えた。
「七夕? ガキじゃあるまいし、そんなモンやるかよ」
「貴様はいいかも知れんが、リーダー達は楽しみにしているのではないか」
「笹なんざ買う金ねーっつの」
「河原に幾らか生えていたぞ」
「……面倒臭ェ」
「ああ、何とこんなところに短冊に使えそうな折り紙が落ちているぞ、銀時」
「お前が今落としたんじゃねーか。何、ガキよりてめーの方が浮き浮きしてんの。むしろ全部用意済みじゃねーの」
「馬鹿を言うな。俺はあくまでリーダー達の為にだな」
「アレ、ヅラ、どうしたアルか」
「おお、リーダー! 今丁度銀時と、七夕の飾りの話をしていてな」
「タナバっちい?」
「タナバタ、七夕だ。1年に1度だけ、離れ離れになっていた恋人同士が星の河の中州で出会う日でな。その日には短冊に願い事を書いてその恋人たちに頼むと叶えてくれると言われている」
「そんなろまんちくな行事があったアルか!」
「ほら見ろ、楽しそうではないか。よし、ではリーダー、短冊を作ろう。まずはこの紙をだな。……あれ?」
「……あー、面倒ぃっつったろーが。貸せ。てめーにやらせてっと、神楽が書く前に紙がなくなる」
「どうしたんですか、皆、あ、七夕ですね!」
「ああ、そうだ。今銀時が短冊を作ってくれているのでな。皆で願い事を書こう。エリザベス、ペンを頼む」
『笹、玄関に立てておきますね』
一方某所某警察組織屯所内。
「近藤さん、何やってんですかい」
「短冊だよ短冊。お前達皆も書くんだぞ」
「何やってんだ、近藤さんに総悟。仕事はどうした」
「お、トシもいい所に、はい、これお前のな」
「待て、オイ、俺は仕事の進行をだな」
「近藤さん、できやしたぜ。『土方の野郎がさっさと成仏して無事副長になれますように』こんなモンでいいですかねィ」
「おお、よく書けてるじゃねェか総悟。よしよし、一番上に飾るからな」
「って待てェェェエ! お前ら何ナチュラルに恐ろしい願望掲げてんの、しかも総悟の短冊、裏側にお江戸征服、とか書いてあんだけどォォォォ!?」
「ほら、トシも騒いでねェで書け書け、好きなこと書いていいぞ。俺は勿論、お妙さんと夫婦になれますように、だからねッ!」
「……上司がストーカーをやめてまともになりますように、部下がもっと従順で大人しくなりますように」
「あんぱんあんぱんあんぱんあんぱんあんぱんあんぱんあんぱんあん」
「って何恐ろしいモン書いてんだ、てめ、山崎ィィィィィ!」
「はは、皆の願いが書いてある短冊を見るなァ楽しいもんだなァ。な、トシ、総悟」
「いや、コレ何か呪いとか野望とか犯罪しか書かれてねェよ、短冊じゃねェだろコレもう、大体願掛けなんざ」
「願掛けを気にしねェんでしたら、土方さんには何も関係ねーんですねィ。ならそこに頭から土に埋まって笹になれ、土方てめーならできる」
「何勝手に人笹にしようとしてやがるんだてめェはァァァア!」
隊士皆が今年も無事命永らえますように。&江戸が平和でありますように。&トシと総悟があんまり大怪我をしねえように。
これでよし、と、書き足した小さな短冊をそっと端の方に飾るゴリラ。
「で、明日は総悟の誕生日だからな。終わったら片づけてそっちの飾りつけだぞ」
ぽんと栗色の頭を叩いたゴリラに、け、と言いながらも何やるか、と紫煙吐き出す黒髪。え、やべ、すっかり忘れてた、と走り出すのはミントン持った監察方。
「今日はまだ違うんで。ただの七夕でいいんでィ」
言って笹を見上げた栗毛の頬は少し赤かった。
「パフェ腹いっぱい食わせろ」
「卵かけごはん毎日食わせろアルネ」
「攘夷がJOY」
「てめーら七夕の短冊を何だと思ってんだァァァァ!」
万事屋の皆が元気で今年も一年いられますように。
何新八、眼鏡の癖してまともなこと書いてんの。
「普通のことしか書いてないじゃないですか」
いやいや十分ヘンなこと書いてるアル、まともなこと書いてるのがおかしいアル。
あのな、そんぐれーのまともなこと、俺だって書けるからね。例えばそこにいるバカだの眼鏡だの大食いだのわんころだのババァやカラクリ、猫耳ババァだのが、いや、皆が、
銀時、途中で切れているぞ、長く書きすぎなのではないか。
「銀さん、桂さん、神楽ちゃん、短冊の裏の余白で会話しないでくださいよ」
いやいや会話なんざしてねーからね、してんのそこのバカだけだから。
バカじゃないアル、ヅラはアホね。
どっちも同じだリーダー。
だからいい加減短冊の裏側で会話すんのやめてくんない、セリフだって解りづらいからやめてくんない。
いーじゃねーかぱっつぁんよ。短冊は多い方が織姫も喜ぶだろうよ
「アンタらの願い事でも何でもなく、地球環境に優しくないですからァァァァア!」
『あ。笹倒れちゃいます、』
うっぎゃァァァアアアア!
7月7日は七夕の日。天の川を星がわたる日、
「……だよね? 間違ってねーよなァ?」
「……ああ、多分だがな。おい銀時どうにかせんか」
でかい笹の下から生えた手が、そんな言葉を発してぱたりと落ちた。
そこにいるバカだの眼鏡だの大食いだのわんころだのババァやカラクリ、猫耳ババァだのが、いや、皆が、――いなくなっちまわねーで、いつまでも笑ってるように。
fin.
モドル
※七夕の時、日記に書き散らかしたものに2、3行だけ付け加えてこちらに置き直しました。沖田くんの誕生日SSが難航したのでちょっとそれも兼ねて。